知る人ぞ知る、京都の奥座敷、
円通寺は、比叡山を借景とする京都を代表する国指定名勝ともなっている素晴らしい借景庭園です。
といっても他の借景庭園と異なることは、ここの庭園自体が素晴らしいというよりも、借景となっている
比叡山が実はこの庭園のメインであるということにあります。借景庭園では通常は背景の山なり風景を
庭園の一部として取り込むことで庭園自体に奥行と広がりを持たせることを目的に
造成されるわけですが、通常の借景庭園では庭がメインであり、借景は補完であることが多いですが、
こと円通寺に限っては主従が逆転し、メインはあくまで比叡山であり、庭園は山裾の風景の一部を表す
約400坪の広さと約50種類の植物からなる「混ぜ垣」と呼ばれる高さ約1.6mの垣根とからなる枯山水平庭庭園となっている
ということが決定的に異なるところです。
なぜここの住職さんがこの比叡山が見える借景の維持にこだわるのか、その本質は比叡山こそがこの庭園のメインということが
あるからだと思います。メインを取り去られた庭園がどうなるのかは・・・・
円通寺は臨済宗妙心寺派のお寺で、山号は大悲山です。
円通寺の歴史は江戸時代初期の御水尾上皇の時代にさかのぼります。1639年に比叡山の景色が見えるところに
離宮を造ろうと考えられた御水尾上皇は、最適地として現在の円通寺のある場所に幡枝離宮を造成されます。
その後1678年に霊元天皇の乳母に当たる文英尼(圓光院殿瑞雲文英尼大師)を開基に迎えて後水尾上皇より
大悲・円通の勅額を賜り、尼寺として創建されたのが円通寺の始まりです。
本尊は宇治平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像を彫ったとされる
平安時代後期の仏師・定朝作といわれる聖観世音菩薩を安置しています。定朝作の観音像ということで
かなり古い歴史のあるものですが、どこから持ち込まれたかはよく分かりません。
円通という言葉が観音様を意味することから、本尊も観音様になったのでしょう。
円通寺はかつて2002年10月までマスコミの取材を拒否、宣伝で人を呼ばないことで
閑静さと雰囲気を非常に大事にするため一般の人も撮影禁止という、非常に厳しいお寺でしたが、土地区画整理事業に伴う
周辺の開発が決定し、道路やマンションなど高層ビルが比叡山の借景を壊しかねないということと、
借景が壊される前に少しでも多くの人にこの借景庭園を記録に残してほしい、
この庭園の風景を焼き付けておいてもらいたいという理由で方針転換され、2002年(平成14年)10月12日より庭園部分のみ撮影可能となりました。
現状においては2007年9月1日よりに京都市眺望景観創生条例が、住職さんたちの長年の努力によってか施行され、
標高112.5m以下の建物しか建築できない等の規制が実施されました。
しかしまだ違反の罰金50万円というところで不安は消えません。現状でも比叡山を遮るほどの高層建築こそないものの、
住宅の屋根が庭園の垣根と比叡山の間に位置してしまっており、開発前のかつての面影はもはや期待できないかもしれません。
このまま景観を維持できれば素晴らしいことですし、部外者ではありますが私もそれを希望するものですが、
規制強化による建設業界との摩擦やマンション販売業者の撤退、規制強化に伴う地価下落、
既存マンションへの規制適応によるマンション価格下落と住民の負担への影響などなど一筋縄ではゆかない多くの問題もあり、
宅地化が進めば住民の利便と景観との調和といった難題をさらに抱えることになってゆくと思われますし、
景観を維持してゆくことこそが歴史的価値の高い京都の価値を一層高めることにつながるということを
より多くの人に理解してもらえるように働きかけ続けてゆくことは並大抵ではないと思います。
このようにこの先この庭園の借景がいつまで維持できるのかはまだまだ予断を許さず現状不透明な部分も非常に多いです。
円通寺の拝観料は500円、駐車場は無料駐車場がありますが10台程度のスペースしかなく非常に狭いです。
拝観時間は午前10時〜午後4時までです。なお、撮影可能なのは庭園部分のみとなっており、
そのほかの建物および室内は撮影禁止です。三脚は使えないことは言うまでもありませんが。
円通寺 紅葉の借景庭園
比叡山を借景とする名庭園・円通寺の紅葉時期の借景庭園です。